未来空想新聞2041年(令和23年)5月5日(日)

「オヤスミ・シティー」導入広がる

 都市機能を担う機械やAI(人工知能)、ロボット、家電が定期的に休憩する「オヤスミ・シティー」の総人口が、4月末までに初めて100万人を突破した。政府が4日、公表した。企業が拠点を「シティー」内に移転させる動きも後押しし、20~40代の住民の移住が相次いでいる。

 「オヤスミ・シティー」は、官民で2036年に設置した「国民疲弊対策会議」(通称・お疲れ会議=オツカイ)の提言をもとに37年に大阪府に初めて開設され、5都府県の107カ所に広がっている。

 「疲れた」「帰りたい」――。20年代後半、SNSに現役世代の投稿が相次いだ。人口減少による労働力不足は深刻化。29年時点で平均残業時間は46.7時間に達し、5年間で約2.3倍に増加した。

 生産性を重視する産業構造に加え、絶え間ない情報の摂取に追われ、人々は体の限界を超えて休みなく働き続けるように。社会全体が「疲弊」するなか、自分の体と向き合うことで生活にゆとりと活力を取り戻そうとする動きが広がった。30年代には常時稼働せずに自分の都合で「休憩」する配達ロボットが「人間らしい」と話題に。そうした機械とともに人間も休み、「積極的中断」を取り入れるライフスタイルは、むしろ創造力も向上させることが明らかに。こうした考えを都市に応用したのが「オヤスミ・シティー」だ。

 非常用を除いて定期的に「休憩」。積極的に休む機械に対し、人も自分の心身の調子と向き合うことで過剰な稼働に歯止めがかかる。

 昨年5月に開設された千葉県舞浜市の「オヤスミ・シティー」は「創造性ある都市ランキング」1位に選ばれた。市内の会社員の安田悠さん(29)は、「自分の調子に向き合いながら、できないことはロボットやAIを含めた仲間と補完し合うことで、今まで以上にできることが広がった」と話す。

(取材協力・監修=美学者、東京工業大学教授・伊藤亜紗さん)




伊藤亜紗さんのインタビュー

終わりのない「疲労社会」で、有限の身体をケアするには?

ロボットも体調に合わせて休む街

空想記事「『オヤスミ・シティー』広がる」は、美学者の伊藤亜紗さん(東京工業大学教授)への取材を参考に作成しました。テクノロジーが発達する未来、私たちは自分の身体とどう向き合い、どのようにケアすべきなのでしょうか。伊藤さんにうかがいました。

 伊藤さんは「今、人がとても疲れていますよね。疲れを取るサプリや、よく眠れる栄養ドリンクがあちこちで売っています」と切り出します。労働力不足が進行しそうな未来で、伊藤さんが関心を持つのは「疲れ」の問題だといいます。

一般社団法人日本リカバリー協会の2023年の発表によれば、コロナ禍が一段落しても「疲れている人」が8割。特に20~40代が疲れを感じていました。

「哲学者のビョンチョル・ハンは著書『疲労社会』で、人間は奴隷ではなくなり自由になったはずなのに、実際は自分が『できる』という能力を証明するため、自分を自分で搾取し続けてしまうと分析して、世界的に話題になりました。『疲労』が現代社会を分析するキーワードになっています。また、社会学者の石岡丈昇さんによれば、疲れには二種類あって、『疲労』は達成感があるが、『疲弊』は終わりがない。今の社会では人間関係、職場、環境などいろんなところに『疲弊』がある」と前置きして、伊藤さんは思いを語ります。

働く量に人間が合わせる未来は、イヤだなって思う

「現代では身体が大事にされていなくて、まず働く量が先に決まっているし、その前提条件に合わせて人間が過剰に働かなくてはならない。労働だけではなく消費もそうですよね。スマホに一日中注意を惹(ひ)きつけるような、ひたすら人を疲れさせるような消費が促されています。自分では身体の研究者として、人がもっと疲れる未来はイヤだなって思います」

そして過剰な「疲れ」を減らすために、伊藤さんは「単に個人が健康になるとかいう話ではなくて、身体の有限性を前提に働く量を合わせる社会にしていくべきだと思っています。体をケアすることとは、体の有限性に付き合うことと言えます。その方向に社会全体が変わっていく必要があります」と言います。

「漏れる利他」とは 人工物と人間の良い関係

伊藤さんは「ケア」につながる論点として、他人のための行動を意味する「利他」の研究もしています。伊藤さんが提唱しているのが「漏(も)れる利他」。「自然界で水や酸素、あるいは“木漏れ日”のような光もそうであるように、利他とは一方的に『与える』ものではなく、意図せず漏れ、あふれてしまうものを他の人が受け取るという感覚です」。この意図しない、自律的しつつ気付けばお互いに影響しあっている状況が大切だと伊藤さんは言います。

その上で、2040年代を見据えた伊藤さんが考えたのが、「機械やAIが疲れて休む社会」というものでした。

「結局、なんで疲れるかというと、ずっと繫(つな)がったまま、切断できないからです」。常時オンの状態を逸(そ)らしてくれる他者の一例として伊藤さんが出したアイデアが「休憩するロボット」。「人がロボットの都合に合わせないように、ロボットも人間の都合で動かない。『ロボットが自身の都合でお休み』すれば、人間もそれにあわせて疲労しなくなるのでは」

伊藤さんは空想します。「人工物もちょっと『有限な身体』の方が私たちもラクになるし共感できる。自律的で、そっぽを向いて、『今日は眠いから』と切断してしまうロボットがいてくれれば。そうした将来なら、今より人間と人工物はよい関係を結べるのでは。そんな『思い通りにならない』街ができたらいいなと思います」

  • 伊藤亜紗
    ITO Asa

    1979年、東京生まれ。東京工業大学科学技術創成研究院未来の人類研究センター長、東京工業大学教授。2010年、東京大学大学院人文社会系研究科を単位取得のうえ退学し同年、東京大学で博士号(文学)を取得。著書は『ヴァレリーの芸術哲学、あるいは身体の解剖』『目の見えない人は世界をどう見ているのか』『記憶する体』『手の倫理』等。2020年に「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」と「サントリー学芸賞」を受賞。

    ネットを離れ、実際に足を運んで自分の目で見て考えよう。自分なりの経験が大切です。