「イスラエル人もパレスチナ人も、自分の痛みばかりを強調して、相手の痛みを想像することができないのです」
連日のように報道される、パレスチナ自治区ガザでの戦闘。イスラエルの歴史学者で、人類の進化をひもといた著書『サピエンス全史』が世界的ベストセラーとなったユヴァル・ノア・ハラリさんは、自国が関わる紛争について、そう話します。
「それぞれが異なる宗教や文化を持っていますが、そもそもは同じ人間です。サッカーをしたり、チョコレートを食べたりするのが好きなのは、イスラエルの子どもも、パレスチナの子どもも一緒です」
人類が争うなか、私たちはグローバルな脅威に直面している。それに気づいてほしい──。ハラリさんはそう話します。その一つが人工知能(AI)です。「たとえば、ナイフは人を殺すことも、手術で人を救うこともできる。それを決めるのは人間です。でも、AI兵器は誰を殺すかをAI自身で決められるのです。もし核兵器とAIが使われる第3次世界大戦が起きれば、人類は壊滅する可能性があります」
「これからの時代」を生き抜くために、私たちは何を心がけるべきなのでしょうか。
ハラリさんは変化に対応することができる「柔軟な思考を持つこと」と答えます。「日本のみなさんにとって、遠く離れたガザでの戦闘のニュースは〝見る・聞く〟だけかもしれません。でも、物事を単純にとらえず、よく考えるようにしてください。すべての問題に共通することですが、どちらかを100%の善と悪に切り分け、悪いほうを完全に排除しなければならないといった考え方は問題を悪化させます」
「柔軟な思考」を持つため、ハラリさんは2時間の瞑想(めいそう)を日課にしているそうです。「どういう未来をつくるかは、私たちの意思であり責任です。そのために、自分と向き合い、弱点や恐れ、憎しみを知り、克服することが大切です。心を情報の洪水であふれさせると、消化する時間がありません。これは精神衛生上よくありません。情報の質にも注意する必要があります。『ジャンク情報』を消費するということは、心がジャンクフードを食べるのと同じこと。時には『情報断食』をしてはどうでしょうか」
そしてもう一つ。歴史を学ぶ重要性も説きます。
「歴史を通じて過去の失敗から学んだり、自分が何者であるかを深く知ったりすることができるからです。それは、AIやバイオテクノロジーの問題に対処する際、自分のスタンスの基盤になります」
「生物は興奮させ続けると死んでしまう」と指摘するハラリさん。インタビューの終わりに「2041年には人々が興奮するようなニュースが減っていることを期待しています」と希望を込めて話してくれました。
目指すのは、温かいニュースがあふれる世界。「たとえば病院がなかった地域に、病院が建てられた、とかね。刺激はありませんが、最終的にはこれが最良だと思うのです。戦争に関するニュースがなくなってほしいですね。うまくいけば、そうなるでしょう」