未来空想新聞2041年(令和23年)5月5日(日)

ALSを克服、次は脳波で車を運転

デジタルアバターDJとして世界ツアーも大成功

 クリエーターとして、音楽やファッション、メディアアートの分野でテクノロジーとアートの可能性を広げる武藤将胤さん。難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)を27歳で発症し、闘病を続けながら作品を世に出しています。当事者の発想を生かして、目の動きによる視線入力、脳波や音声合成の技術を駆使して言葉を発したり映像を動かしたりできるテクノロジーツールの研究開発も手がけています。

 活動の原動力は、「自分たちの挑戦や切りひらいた道が、ALSやさまざまな困難と闘っている人の未来への生きる希望となってくれる」という思いです。ALS当事者として世界初の試みに次々と挑戦してきました。米国で開かれたイベントでは、視線入力によってアバターを操作したパフォーマンスをリモートライブ配信。リアルタイムで、現地の観客を沸かせました。

 武藤さんが思い描く2041年は、車いすも自動車も頭の中の「脳波」で運転できます。自身も参加しているコミュニケーション技術の研究開発では、脳波で動くアーム(腕)を使って握手が可能になりました。これと自動運転の技術を組み合わせれば、ALS当事者が車を運転する未来は夢ではありません。

 「エンターテインメントの世界も大きく変わる」と言います。41年にはVR(仮想現実)の進化によって五感すべてがアバターと接続し、世界中の人が、どこにいてもライブ会場にいるような臨場感で楽しめるようになると予想します。

 さらに武藤さんは、テクノロジーの進化によって差別や偏見といった課題も解決できると期待します。「失った身体機能の補完だけではなく、誰もが身体を拡張できるようになれば、障がい者と健常者の違いがないボーダーレスな社会になります。また、メタバースでは、障がいも人種の違いも関係なく、内面の違いが個性になります」

 多様性の時代と言われる現代でも、障がい者の就労や社会参加という面では課題がたくさんあります。「視線入力、音声、分身ロボットなどの技術を活用すれば、働ける可能性が広がっていきます。そのためにも、誰でもテクノロジーを平等に使える世界にならないといけないですね」

 「すべての人が自分らしく挑戦できる社会」の創造に挑む武藤さんにとって、未来を担う子どもたちとの触れ合いは大切な時間です。23年に誕生した長女とは、音声合成技術を使って話しかけたり、電動車いすで一緒に出かけたり、ロボットアームであやしたり、テクノロジーを活用した子育てに挑戦したりするほか、中学生にはライフデザインの課外授業を通じて、夢を持つ大切さを伝えています。

 「人は夢や目標を持つからこそ、未来にワクワクし、困難を乗り越える力になります」

 ALSによる困難を一つひとつ乗り越えているのは、「たくさんの夢があるから」と語る武藤さんの瞳は明るく輝いていました。

  • 武藤将胤
    MUTO Masatane

    一般社団法人WITH ALS代表理事。1986年、米ロサンゼルス生まれ、東京育ち。國學院大學経済学部卒業後、博報堂に入社。2014年にALSと診断を受け、16年にWITH ALSを設立。エンターテインメント、テクノロジー、介護の3領域で課題解決に取り組んでいる。クリエーターとしては、20年東京パラリンピック開会式や22年カンヌライオンズなど国際的イベントにも多数出演している。

    みんなの人生にも限界なんてありません。ともにワクワクする未来をつくっていこう。