「日本にいい政治家がいないってことは、日本にいい国民がいないってことなんじゃない?」
2019年、留学先のデンマークでつきつけられた言葉にはっとしました。当時21歳の能條桃子さんは大学を休学し、デンマークのバイレ市にある民主主義的な思考力を育てる教育機関、高校でも大学でもない「フォルケホイスコーレ」で学んでいました。
デンマークは、世界幸福度ランキングで常に上位に位置し、総選挙の投票率は80%を超える国です。能條さんは民主主義が国民の幸福に直結している環境をうらやましく感じ、「日本にはいい政治家がいないから」と思わず漏らしました。その不満に対するデンマーク人の友人の返答は、「政治家は有権者が選ぶもの。日本の現状は国民自身の責任ではないか」という的を射た指摘でした。
自治体でも国でも自分たちが選んだ代表が決断している──民主主義の本質にあらためて気づかされた能條さんは、友人たちとすぐに「NO YOUTH NO JAPAN」という団体を立ち上げます。主に30代以下の若者の政治参加を進め、投票率を上げるのがねらいでした。 「滞在中、デンマークで女性が首相になったんです。でも、メディアが女性という属性にことさら触れずに、普通のこととして政策などを冷静に報じていることに驚きました」と能條さんは振り返ります。「日本はまだ『政治は高齢男性のもの』という雰囲気が根強いですよね。誰でも政治家になれるよう、組織力、知名度、資金力がものをいうような、古い政治のシステムそのものを変えたいと思っています。選挙に立候補できる被選挙権も、選挙権と同じ18歳に引き下げたいですね」
「民主主義は『私たちの未来は私たちで決める』ということに尽きると思います。『結婚したいけれど名字はどうするの?』『奨学金の返済が大変!』といった直面する身近な悩みが実は政治につながっている。日常のもやもやした個別のイシュー(問題)を考えることが政治の入り口。声を上げることや投票することで、年齢や性差に関係のない生きやすい世の中をつくっていけるはずです」
デンマークでの留学時、現地の友人に「なぜそんなに積極的に政治に参加するの?」とたずねた際の返事が忘れられないと言います。──動けば変わるから。この言葉は、今も能條さんの大事な行動指針です。SNSで発信する、署名を集めるといった行動を起こせば、まず身近な友人が変わる、仲間が集まる。そうした小さな成功体験を重ね、一人ひとりの声が反映される民主主義を体感してきました。
また能條さんは「社会人」という言葉の定義が変わってほしいとも願っています。「今は社会人といえば、働いている人や会社員というイメージが強いですが、一人ひとりが、自分の生きづらさや社会の課題解決を人まかせにせず、自分の意見を持って市民社会に関わる本当の意味での『社会人』が増えれば、『高齢男性ばかりが決める国』から日本は脱却できる」と期待しています。年齢や性差を問わずさまざまな声が吸い上げられれば、41年には政治のあり方が大きく変わっているはずです。
「たとえば閣僚の平均年齢は40代前半になっているなど、どの世代にも自分たちの代表だと思える議員がいる社会が理想です。それから、47都道府県の知事の過半数が女性になっているといいですね。一過性の女性首相誕生より、社会全体の根本が変わったインパクトがあります。自分の行動で、意外と社会は変わる・変えていけるんだと実感できる未来にしたいです」