スーパーで見かける「ブロッコリースプラウト」や「豆苗」といった発芽したばかりの栄養価の高い野菜。こうした「マイクロベジタブル」を世界に先駆けて開発し、販路を拡大してきたのが、オランダの農業大手「コッパート・クレス社」です。
シソやバジルのほか、青りんごやわさびなど、めずらしい味のマイクロベジタブルも育てています。マーケティング担当のスティン・バーンさんは「植物には私たちが想像している以上の驚くべき世界があり、それを発見したいと思っています」と熱く語ります。
クレス社は、持続可能な温室栽培にも積極的に取り組んでいます。目標は、温室効果ガスにおいて、排出量を上回る量を吸収する「カーボンポジティブ」を2026年までに実現すること。「利益も大切ですが、私たちは正しいことをしたいのです」
首都アムステルダムから車で約1時間。バーンさんが働くクレス社の本社はオランダ最大の施設園芸地帯・ウェストラントにあります。
温室栽培には、太陽光の代替としてLED照明を使っています。LEDが発する熱や、温室内の熱気を地下170㍍に貯蔵する帯水層蓄熱システムも導入しており、蓄えた熱は冬場に再び取り出して再利用しています。
このシステムを導入した十数年前は「安い化石燃料があるのに、なぜこんな高価なシステムを導入するのか」と疑問に思う人もいたそうです。それでも、「私たちは枯渇していく化石燃料はいずれ高価になるから、持続可能な道を選びたいと考えたのです」。
22年にはロシアのウクライナ侵攻で天然ガス価格が高騰しましたが、クレス社はこのシステムのおかげで影響を受けずに済みました。「私たちはフロントランナーになりたいのです。誰かが先に進めば、後から来る人たちはより楽に続くことができると信じています。だから私たちはクレイジーだと思われるようなことに取り組むのです」
バーンさんに41年に向けた夢をたずねると「未来について語りたければ、時計の針を過去に戻す必要がある」と話します。「昔は村に住んでいればパン屋も消費者も互いをファーストネームで呼び合う関係だった。でも距離はどんどん遠ざかり、今や私たちは食べ物がどこから来たのかわからず、安心もできません。私たちは食べ物に対する知識が年々薄らいでいます。ウェブサイトをプログラミングできても、自分が食べる物を作れない子がいるのです」
クレス社のギャラリーには、見上げるほど大きな絵画が飾ってあります。左側に大都市、右側にハイテク温室が描かれています。「大都市の近くには新鮮な食料を供給するための生産地が必要だという、私たちが忘れてはならない姿なのです」とバーンさん。生産地が近くにあることで、食べ物がどこから来るのかを身近に知ることができるからです。
そんな地域ネットワークの大切さを訴えるバーンさんですが、夢は世界にも広がります。「健康や持続可能性のために私たちはもっと野菜を食べるべきです。薬は病気を治すことができますが、食べ物は病気を予防します。将来は知られていなかった植物を世界中で見つけて私たちの農園で栽培し、商品として世界に還元できたらと思います。41年には(健康効果のある)機能性食品の革命が大きく進展してほしい。特に睡眠の質を改善してくれる新種の植物が見つかったらいいなと思っています」