小中高と大分県の公立校で学び、米ハーバード大学へ進学したバイオリニストの廣津留すみれさん。入学当初は「発言」をしないと出席にならないハーバード式の授業に戸惑い、後れを取ることが多かったそうです。
この〝壁〟にぶつかり乗り越えたからこそ、教育現場には「幼い頃から自分の意見や案を発言する場をつくることが必要」と感じています。
「議論の場で否定的なことを言われたら、攻撃されたと感じたり、ケンカのようになったりすることもありがちです。そうではなく、対等に議論することが大事。人の意見を受け入れ、そして自分の意見を伝える。それをもとによりよい案を目指して対話する。簡単なようですが、大人でもなかなかできていないことがあると思います」
廣津留さんが〝対話〟の大切さを実感したエピソードがあります。大学1年生のとき、オーケストラの一員として参加した演奏旅行でのこと。イスラエルでの演奏後、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区の学生たちとセッションをするために現地の音楽院を訪れると突然、「イスラエルで演奏してきたあなたたちとは、一緒に演奏できない」と告げられました。
「〝音楽は国境を超える〟と言いますが、簡単にそうは言えないと肌で感じました。でもこのとき、門前払いにされず〝なぜ一緒にできないか説明したい〟と、対話の機会をつくってくれました。結局、演奏はできませんでしたが、議論という形でセッションができた。いい経験になりました」
〝一緒にうまくやろう〟ではなく、まずは相手のバックグラウンドを理解することから始める。そのために必要なのが、対話。「音楽に限らず、社会的不平等といった現代社会の課題に取り組むうえでも同じですよね」
バイオリニストやテレビ番組のコメンテーターとしての活動に加えて、大学の教壇にも立つ廣津留さん。2041年の教育は「それぞれが好きなことをどんどん突き詰め、それが評価軸になっていてほしい」と話します。
「何に情熱を傾けて、それをいかに極めたかで評価される教育現場になっていてほしいです。〝好き〟がなかなか見つからない人も、焦らずに色々なことを試せる。そんなきっかけを与える場所になっていてほしいです」
廣津留さんのもう一つの空想は、メタバースにおける他者とのやり取りが、もっとシームレスになること。
「同じ場所を共有することの重要性は音楽でも学校でも同じです。今はまだデバイスの隔たりを感じますが、集まった人たちが互いにその場にいることをリアルに感じられるほど技術が進化するはず。学校に行くのも、家から授業に出るのも、どちらも選べるようになり、たとえば『不登校』の概念もなくなるような。さらに、色々な国の生徒が同じ教室にいて、あたり前のように意見を交わしているのが理想です」
これは音楽のセッションでも同じこと。
「リモートでセッションすると、今の技術ではどうしても音のズレが生じます。それをなくして、世界各国からアクセスした音楽家たちと一緒に生ライブをしたいですね」