格差や分断といった社会課題に斬り込んできた英国在住のコラムニスト・ブレイディみかこさんは、 保育士としての体験や生活者としての視点を大切にしてきました。
今、 最も問題意識を感じているのは英国の子どもの貧困だと言います。 息子さんが通う高校や地域のフードバンクを手伝うなかで 「本当に食べていけない人たちがいる」 と感じています。フードバンクは、 困窮している人たちに地域で寄付された食品を届ける仕組み。 育児用のフードバンクにはミルクやおむつを買えない人たちが訪れているそうです。
英国で厳しい現実と日々向き合っているブレイディさんにとって、英国と比較して、日本で子どもの貧困率が下がっていることが「驚くべき変化」に映ります。厚生労働省の国民生活基礎調査によると、2012年には16・3%だった「子どもの貧困率」は21年に11・5%になりました(ただし12年と21年は基準値が異なる)。
英国では1999年に労働党のトニー・ブレア首相(当時)が「2020年までに子どもの貧困を撲滅する」と宣言し、多くの政策を打ち出して子どもの貧困率を下げたことがありました。就学前の子どもと親を総合的に支援する「チルドレンズ・センター」を全国に設置するなどした結果、1997年の政権誕生から2010年までの間に子どもの貧困率は26%から18%に減少し、特にひとり親世帯では49%から22%へと半分以下の割合になりました。
その後、10年に政権を奪い返した保守党が緊縮財政に舵を切ったことで子どもの貧困が再び増加に転じましたが、「子どもたちの未来を大人たちが応援することで社会を変えようとする明るい前向きなパワーがすごくありました」とブレイディさんは当時を振り返ります。だからこそ、日本の子どもの貧困率低下に寄与する活動に期待を寄せます。
地域社会全体が貧困の問題に向き合えば、社会の活性化にもつながるはずです。英国では新型コロナウイルス感染症対策の外出制限のなか、高齢者に食べ物を届けるなど、社会階層や民族に限らず互いに助け合い、連帯が生まれました。
「日本も地域住民が力を合わせて子育てに関わることで、世代や職業、出身国の違いを超えて、新しい出会いが生まれ、多様性を認め合う、人にやさしい社会になるでしょう。『多様性』は観念で受け入れるものではなく、出会い、触れ合って初めてわかるものです」
地域で子育てをするような社会になれば、相対的に貧困率が高いひとり親家庭など、さまざまな家族のあり方を支援し包摂できるはずです。SNSで世界各地の生活状況が手に取るようにわかる今、日本は子どもの貧困がなく、子育てがしやすいという認識が広がれば、「日本で働いて子どもを育てたい」と考える人が海外から来るようになるとブレイディさんは考えます。
「人が人にやさしくできれば国が豊かになる。それが41年の日本の姿です」