『ドラえもんを本気でつくる』の著者として知られる、AI研究者の大澤正彦さん。現在は、ロボットの「心」に関する研究を進めています。 「心は〝あるもの〟ではなく〝あると思うもの〟というのが僕の考えです。これは三つのプロセスに分類できます。一つ目は人がロボットに〝心があると思うこと〟。ペットロボットに対して、そう感じている人は多いですよね。二つ目は逆にロボットが人に〝心があると知ること〟。人が心を感じるメカニズムを研究し、ロボットに導入する形です」 この二つが実現すれば、三つ目の〝ロボット自身が心を持っていると感じる〟こともかなうのでは。これが大澤さんの仮説です。 「そんなロボットなら、心があると認めてもらえるはず。だからこのプロジェクトでは、心を感じる技術やプログラムを研究しています」
ロボットの心を進化させるためには何が必要か。大澤さんは「他者の行動を〝意図スタンス〟で解釈するとき、人は心を感じる」と言います。意図スタンスとは、〝相手の意図を、受け手が想像してとらえている状態〟のこと。たとえば、バスや電車で高齢者に席を譲るのは「座りたいだろうから、きっと席を譲れば座る」という意図を予測したうえでの行動です。 「これを突き詰めていくことで、自分自身を意図スタンスで解釈できるロボットが作れるんじゃないかと思います」
そう言って「この分野では、日本に勝ち筋が見える」と続ける大澤さん。古くから山、風、家などに神が宿り、心を感じる文化を持ち続けてきた背景が、人とロボットの相互交流を研究するうえで有利だと考えているからです。 「日本では、実生活の中から意図スタンスの事例が広く集められます。これらをデータ学習した独自のAIプラットフォームを持てたなら、AIと共存する社会を日本が先導できるはず。というか、日本がやらないとダメだと思っています」
2041年、大澤さんのプロジェクトは世界をどう変えているのでしょうか? 「よく聞かれますが、僕はただ、目の前にいる一人ひとりを大切にしたいだけです。世界中の人にもそうあってほしいけど、目の前の人が増えると自分一人の力では難しくなってくるので、今、作っているロボットはそれを実現する存在。〝AIパートナー〟が一人ひとりに寄り添って、自分らしく生きられる世の中になっていればいいですよね」 最近の世の中は「寄り添うエネルギーが枯渇している」と感じる大澤さん。ロボットやAIで足りていない寄り添うエネルギーを補完し、世界100億人の協力関係で心を持ったテクノロジーが生まれる。そんな希望を胸に、ロボット作りを続けていきます。