近年、空間やモノ、スキルなどをシェアする「シェアリングエコノミー」の市場が拡大しています。日本シェアリングエコノミー協会の調査によると、2032年度には最大15兆1165億円に達し、41年に向けても大きく拡大していくと予測されています。
このシェアリングエコノミーの広がりが、将来的に「経済モデルの変化を引き起こす」と語るのは、同協会の代表理事をつとめる石山アンジュさんです。
「これまでの経済成長を軸とした使い捨て前提の社会は、もっと持続可能なものにシフトしていくと思います。また、現在のように行政や企業が個人を管理し、一方向からモノやサービスを売る中央集権型の経済社会も、個人と個人、個人と企業が無数につながる分散型になっていく。組織ではなく、個人が主体となった経済に移行していくと思います」
個人が主体となった社会に変化したとき、個人は孤立してしまうのか。石山さんは「自立分散型の社会でも、根底には共同体意識を持てるかどうかが大事」と語ります。
「国家や企業への帰属意識がなくなったとき、個人は何に帰属するのか。もしかしたら地球意識というのもあるかもしれませんが、宗教への帰属意識が希薄な日本の場合、それはやっぱり人なわけです。どういう共同体意識を持てるのかはこれからも大きな課題ですが、私はそれが〝拡張家族〟的な思想だったらいいなと思っています」
拡張家族とは、血縁や制度にとらわれず、互いの意識で家族としてつながるコミュニティーのこと。石山さんが運営するコミュニティー「Cift(シフト)」がコンセプトとして掲げる、新しい関係性の形です。Ciftには幼児から60代までの約110人が暮らし、職業もさまざま。子育て中の家族もいれば、普段は別宅で家族と暮らし、週末だけ滞在する人も。石山さんは東京にあるCiftのシェアハウスに入居しており、大分の古民家との2拠点生活を送っています。
「つながりが希薄な時代において、同じ家で人と協働しながら暮らすことは、一つのセーフティーネットだと思っています。身体的、精神的に弱っているとき、家族的なつながりが持てるのはすごく価値があること。そうやって相手を家族と思える人数が増えるほど、社会はより寛容になっていくと思います」
シェアハウスや住まいのサブスクなどが増え、くらし方も変わってきました。「いずれは誰もが、数カ所の拠点で暮らすのがあたり前の時代になることでしょう。人や社会の機能が地方に分散し、レジリエンス(回復や復元する力)の低い一極集中から、地方へのパワーシフトも加速していくのではないでしょうか」
不確実性が高い時代に、未来に向けどんなことを考えておけばよいでしょうか? そんな問いに石山さんは、「色々なことが起きたときに、自分の心地よいくらしを保つ備えができているかが大事」と語ります。
「これまで日本の社会では、国が〝こういう社会が豊かだよ〟というビジョンを示して、幸せのロールモデルをパッケージ化してきました。その結果、生きづらさを感じる人が増えたり、多様性のない社会になったりしたんです。個人の幸福、一人ひとりが居心地よいと思える土台の上に、本来の多様性のある社会が成り立つのではないでしょうか」