チャンネル登録者数100万人を誇る人気バーチャルライバーの剣持刀也さんに「バーチャルな世界が日常にあたり前に存在する未来における〝自分らしさ〟」についてたずねたところ「リアルな世界で着飾ったり、メイクをしたりして個性を出そうとするのと方法が異なるだけで、本質的には変わらないと思います」という答えが返ってきました。
「アバターやキャラクターという〝外側〟を好きに演出できるようになることで、逆に〝内面〟の重要性がより高まってくるんじゃないかと思います。そもそもVTuberの文化がここまで人気が出たのも、単なるキャラクターとしてではなく、その中に個性や感情の起伏が感じられて、そのギャップや人間らしさが愛されたからだと思います。どんなに隠そうとしても、個性ってあふれ出てくるものです。その意味でバーチャルとリアルって、突き詰めれば同じだと思います」
技術の発展により、将来的には医療や教育、趣味など、さまざまなことがバーチャルな空間を介して行われるようになり、バーチャルライバーのみならず、多くの人々がバーチャル空間の中にアバターを介して存在するようになるでしょう。
誰もがバーチャルの中で生きるようになれば、そこに人間関係が生じ、〝重み〟が加わると剣持さんは言います。
「今はまだ、アバターではなく(SNSなどの)アカウントでやり取りをするのが主流ですが、アカウントのアイコンはただの絵でしかないんですよね。だから簡単にアイコンを捨てて、別のアカウントを取得するという軽さがあるんです。でも、アバターに入るメタバースの世界だと、匿名の要素が少しずつ減っていき、アイコンという自分の存在自体が重くなっていくと思います」
時間や場所という概念がなくなって、あらゆる情報が一瞬でその場で伝達されるようになり、〝どこでもドア〟ならぬ〝どこでも自分〟が可能になる──。そこに適応していく必要性を剣持さんは説きます。
「より広く多くの人たちとやり取りができるようになるという意味で、未来の人たちのほうが、現代人よりもコミュニケーション能力は高くなるかもしれませんし、他人を傷つける言動をする攻撃的でとがった人間は、コミュニティーの中で敬遠されるようになるでしょう。いわば倫理観がより洗練されて、少しだけみんな、やさしくなるんじゃないかと思います。子どもたちや若い世代は小さい頃からスマホやバーチャル世界に触れていてメディアリテラシーも育まれやすいですし、問題なく適応できると思います。小さい頃から広い社会に触れた大人びた子どもが増えるかもしれませんね。逆に大人の世代は『虚構の世界』だと甘く見ていると、いつのまにかバーチャルの世界のほうが主流になっていて、取り残されてしまうなんてことになるかもしれません。この移り変わりに順応していく柔軟性が必要になってくるかもしれないですね」