未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

伝統文化から学び次世代に続く創作を

日本の心や技術が継承され魅力が増す未来

篠原ともえ

 1995年に歌手デビューし、イラストレーター、ファッションデザイナーと活躍の幅を広げてきた篠原ともえさん。小学校の卒業文集に書いた「ファッションデザイナーと芸能人」の二つの夢をかなえ、今は環境に配慮したものづくりに取り組んでいます。

時代を超えて長く愛され未来に残せる服作り

 デザインを手がけた「ザ・レザー・スクラップ・キモノ」は日本タンナーズ協会との協働で、エゾシカ革を用いた意欲作。昨年世界的な広告賞を受賞しました。製品化の際切り落とされてしまう革の切れ端の曲線から着想を得たこの着物は、「自然に対する敬意や、日本人の特別な感性を丁寧に落とし込んだ作品」だと言います。

篠原ともえ

 ファッション産業は、製造に大量のエネルギーを消費し、商品のライフサイクルも短いことから、環境負荷が大きいと指摘されています。「夫とデザイン会社を立ち上げた3年前から業界の環境問題への意識は高く、私も大きな課題ととらえていました」。篠原さんの意識が変わるきっかけになったのは、祖母が仕立てた着物でした。「祖母の着物は私の心を動かした作品の一つです。世代を超えて残る宝物なのですが、着物は裁断の際に一反の生地を無駄なく使い切ります。サステナビリティーなんて言葉がなかった時代から、その姿勢でものづくりをしていたんです」

 「私が作りたいのはこの着物のように長く愛されて、未来に残せるもの」。そう思い至り、自然体で環境負荷の課題と向き合うようになりました。

 未来に向けた取り組みの一つが、残布を出さない服作りです。「生地を無駄なく使う着物は、仕上がりの美しさはもとより、作る工程からも物を大切にする日本人の心が感じられる。日本が誇る技術や文化を、デザインを通じて次世代に継承したいです」

篠原ともえ

自分の手で創作することが人生を豊かにする

 書道や版画も学ぶ篠原さん。「手を動かすことが好きで、子どもの頃もずっと絵を描いていました。どんな体験も創作に生きるし、成長を感じる喜びがあります」

 そんな篠原さんの創作の源泉は「自然」だそう。「道端の小さな花、夜空に瞬く星など、日常の中にも色彩や造形の美しさにハッとさせられるものがあります。私は自然に惹かれることが多いですが、日常の些細(ささい)なことへ目を向ける心の余裕を持つことを意識しています。インプットが充実していると、ある時それが創作のインスピレーションとなって現れ、デザインや仕事へもおのずとつながっていくんです」

篠原ともえ

 創作の未来におけるテクノロジーの影響について聞いてみました。「先人が残した絵画や音楽が不朽であるように、最先端の技術が発明されたとしても、それで創作するのは人間ですし、作品を受け止めるのもまた人間です。AIの進化で多くの情報に触れ、新たなインスピレーションを得たり、より豊かな表現方法が生まれたりはすると思いますが、創作のあり方の根本は不変と信じています」

 篠原さんが大事にしているのは「好きなことを突き詰め、形にする努力を惜しまないこと」。「歌手としてデビューしましたが、歌もデザインも、相手に喜んでほしいという気持ちは同じ。私の挑戦が、夢に向かう誰かの背中を押せたらうれしいですね」

篠原ともえ

篠原ともえ
SHINOHARA Tomoe

デザイナー、アーティスト。1979年、東京都出身。95年に歌手デビュー。TV・舞台などでの活動を経て、アーティストの衣装デザインを手がけるように。2020年、夫でアートディレクターの池澤樹さんとクリエイティブスタジオ「STUDEO」を設立。デザインを手がけた「ザ・レザー・スクラップ・キモノ」は、22年、世界的な広告賞であるニューヨークADC賞の2部門で銀賞、銅賞を受賞。

子どもたちへのメッセージ

自分らしく、自由に、自信を持って!大好きなことを信じて夢をかなえてくださいね。