すべてに寛容なものづくり社会へ
近年、生産性や効率性を重視する考え方が加速し、時間対効果を表す「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉もよく聞くようになりました。そんな潮流に、静かに逆らうクリエイターがいます。藤原麻里菜さんは、2013年から「頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる」をコンセプトに、「無駄づくり」と題した個性的な発明品を制作し、SNSで注目を集めてきました。
藤原さんにとって「無駄」とは、「今価値がなくても、未来には価値が生まれているかもしれないもの」。何げなく拾った小石でも手触りが好きになれば、「もし強盗にこの石を盗まれて5千円を要求されたら、私はたぶん払っちゃう」と話します。「それは、私の感性が価値を見いだすことで0円が5千円になるということですよね」
「『ものづくり』は役に立つものを作らなければならない気がしますが、『無駄づくり』だともっと受け皿が広くなる感じがしませんか」と藤原さん。米国の化学者エイブラハム・フレクスナーの「有用性という言葉を捨てて、人間の精神を解放せよ」という言葉が好きで、好奇心のままに手を動かすことで「新しい価値」が生まれると語ります。人の好奇心や感性によって「新しい価値」が生まれるなら、それを支えるのは心の余裕や豊かさではないかとも。
「効率化そのものはすごくいいこと」と藤原さんは歓迎します。「空き時間が増えれば、『無駄』に目を向ける余裕もできるはず。でも家事や仕事がかなり効率化されたのに、なんだかみんな忙しいですよね。2時間でいける道と5時間でいける道があったら、私は5時間を選んでほしい。何もないかもしれないけど、5時間の道で来て良かったなと思える寛容さを持って、風景もトラブルも楽しみたいです」
そこで実践しているのが「あえてしなくてもいいことをやってみる」。たとえば、フリマアプリで見知らぬ子どもが描いた絵を300円で購入すると、それが本人のおやつ代になる。「社会の小さな歯車を私が回したような感じがして心地いいんです」
今回「2040年のくらし」をイメージして制作してくれた作品は、「アプリで加工した顔」をかぶるヘルメット。バーチャルに作られた自分を「本当の自分の顔」にして日常生活を送ることができます。「未来はリアルな世界でもアバターで過ごせるようになっているかも。ありのままの姿で生きることも大切ですが、毎日好きな顔を選べたら楽しいですね」
藤原さんが願う未来は「個人や企業のものづくりに対する補助金に3兆円の予算がつくこと」。制作活動によって自身の世界が広がった経験から、多くの人がものをつくることで新たな価値が芽生える世界を夢みています。
藤原麻里菜
FUJIWARA Marina- 1993年、神奈川県生まれ。コンテンツクリエイター、文筆家。株式会社無駄代表取締役社長。2013年にYouTubeチャンネル「無駄づくり」を開設し、200点以上の発明品を制作。世界を変える30歳未満の30人「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2021」受賞。著書に『無駄なことを続けるために』(ワニブックス)、『考える術』(ダイヤモンド社)などがある。