未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

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2040年(令和22年)5月5日(土)

地球規模の水問題を根本的に解決

小規模分散型の水循環システムで誰もが自由自在に水を使える社会へ

前田瑶介

 国連によると、2030年までに世界中で必要な水の40%が不足し、50年には世界人口の過半数が水ストレスにさらされると推測されています。この負のシナリオを回避できれば、地球で起こる水紛争などさまざまな問題の解決にもつながるはずです。テクノロジーで世界の水問題の解決に挑むWOTA(ウォータ)代表取締役CEOの前田瑶介さんに話を聞きました。

 前田さんが目指すのは、既存の大規模集中型の水道インフラから、小規模分散型の水循環システムへの移行です。水資源が潤沢に見える日本にとっても水問題は他人事ではありません。「日本は世界で上下水道が最も普及している国の一つです。しかし、その維持に財政赤字が広がり、持続可能ではないと考えています」

 同社のポータブル水再生システム「WOTA BOX」は、排水の98%以上をその場で再生して何度も循環利用できます。六つのフィルターによるろ過や深紫外線の照射などで、細菌やウイルスを殺菌。センサーやアルゴリズムを用いて水処理を自律制御しています。「2026年にはWOTAの水供給コストが水道コストのそれを下回ります。そして、30年には水インフラの新たなスタンダードになります」

前田瑶介

 技術を独占せず、オープンソースにしていくのが前田さんの考え方。「水問題を速やかに解決するためには、世界中の水を求める人々を包摂する“優しい先進性”が必要」と語ります。

 再利用可能な資源として水を使えるようになれば、水とヒトの関係はどう変わるのでしょうか。前田さんは「人口増加や気候変動といった問題に直面しても、水を巡る争いは起きなくなるでしょう。その先には、健康状態に合わせた水を選べたり、料理に硬水と軟水を使い分けたり、個人が理想とする水を自在にコントロールできる未来があると思います。また、資源の循環がくらしの中でも見えることで、人々が自然との関係性を意識できるようになる。そうすればさまざまな資源を循環可能に最適化していく後押しになる」と予測します。「これからは資源の再利用に投資すべきです。あらゆる分野で調達より再利用のコストが安くなれば、多くの環境問題が解決されます」

前田瑶介

 小規模分散型の資源循環は、水をはじめ、エネルギー、食糧、空気、原料という五つの英字の頭文字を取った「WEFAM」の分野で期待できると前田さん。「水問題の解決という成功体験を人類が共有することができれば、他の資源を巡る問題の解決も必ず達成できるはずです」

前田瑶介
MAEDA Yosuke

WOTA株式会社 代表取締役CEO。徳島県出身。東京大学工学部建築学科卒業、同大学院工学系研究科建築学専攻(修士課程)修了。小学生の頃から生物学研究に没頭し、中学生で水問題に関心を持ったことをきっかけに、高校時代に食用納豆由来のγポリグルタミン酸を用いた水質浄化の研究を実施(日本薬学会発表)。大学では都市インフラや途上国スラムの生活環境を、大学院では住宅設備(給排水衛生設備)を研究。デジタルアート等のセンサー開発・制御開発に従事しつつ、複数社を起業し事業売却等を経験。CEOとして水問題の構造的解決を目指す。100BANCH GARAGE Program6期生。

子どもたちへのメッセージ

やってみないとわからないなら、飛び込んでほしい。その先に本当にやりたいことを見つけられるはず。