未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

公立中学校、月面修学旅行を実施

クリーンな水素社会が実現 脱炭素で地球の気候変動に終止符

野口聡一

 これまで3回宇宙に行った、宇宙飛行士の野口聡一さん。宇宙で一番印象に残ったのは「地球の美しさ」でした。「外から見ると本当にきれいな星なんです。ただ、未来の姿がどうなるかは今後の私たちの選択次第です」

 宇宙では、地球環境の急激な変化を目の当たりにしました。「初めて宇宙へ行ったのが2005年で、3回目が2020年。わずか15年で北極や南極では大量の氷が溶け、南米・パタゴニアでは山頂に向かって氷河が後退し、宇宙から海に浮かぶ氷を見つけるのが容易になりました。温暖化は目に見える形で進んでいます。食い止めるために今なにが必要なのかという意識が非常に強くなりました」

 では、私たちはどこから手をつけたらいいのでしょうか。「まずは今の社会のなにが問題なのかを見える化すること。問題点をごまかさずに理解するのが第一歩です」と、野口さん。「地球の長い歴史の中ではもっと大きな平均気温の変動が起こった時代もあり、少しくらいの上昇は気にせずとも良いとする向きもありますが、単純に気温が1度上がることが問題なのではなく、それによって地球全体に異常が現れていることが問題なんです。夏場の集中豪雨の頻発や、昨年イギリスで40度を記録した極端な高温なんて、少なくともこの50年は起きていなかった。異常気象のトリガーが引かれると、水資源の枯渇や飢餓などドミノ倒しのようにさまざまな形で社会への負荷が増大します。今の大人につきつけられているのはその対策を打つことであり、子どもたちは現状を把握したうえで、未来に向けた選択をしていく必要があります」

技術革新でひらく未来エネルギー転換がカギ

野口聡一

 宇宙開発もまた、現在の温暖化に責任がないとは言えないと指摘します。「ロケット1機打ち上げるにも相当な量の化石燃料が必要で、製造の際にもCO ²を排出します。宇宙には夢があるからといって、温暖化対策上問題になることを行うのは許されないし、改善していかなければいけません」

 航空宇宙業界が2040年に向けて注力すべきこととして、「SAF(持続可能な航空燃料)の活用」「飛行機の電動化」「水素利用」の三つを挙げます。「SAFは、天ぷら油などを再利用して航空機燃料の原料に使うというもので、温室効果ガスの排出量削減に非常に有効です。ドイツでは既に採用している航空会社もありますが、日本での活用にも期待しています」

 「飛行機の電動化」については、「車ほど簡単ではない」と言います。「現在の技術だとかなり大きなバッテリーを積まなければならず、重すぎて飛べません。実現には相当な技術革新が必要で、次の10年は特に、キーとなる蓄電池の開発が重要になってきます」

 燃やしてもCO ²が出ない水素は、2050年までのCO ²排出量ネットゼロ(実質ゼロ)達成を目標にエネルギー転換を進める日本政府も注目している、クリーンなエネルギーです。「今はまだ水素を製造する際に化石燃料を使用しますが、技術革新で水素の製造に炭素を必要としないクリーンな電源が確保できれば、サプライチェーン全体の脱炭素化が実現し、飛行機や車を作る時も動かす時も、どこにも炭素が登場しない社会になります。こうした技術革新は、社会全体の未来への期待感も高められると思うんです。水素社会の実現は、僕が2040年に見たい未来像の一つです」

宇宙から地上のくらしへ調和のとれた社会を目指す

野口聡一

 2040年には140兆円規模になるともいわれる宇宙市場。宇宙への輸送手段のコモディティー化が進み、国はより遠くへ行こうと火星や土星の探査計画を続ける一方で、民間では宇宙観光や宇宙で働く人のための街づくりが進むと予測されています。「脱炭素化できれば、気候変動に関する新聞記事はなくなります。代わりに、〝○○中学校、月面修学旅行が太陽風で延期〞、〝無重力スポーツ選手権開催〞なんて見出しが見たいですね」

 野口さんが目指すのは「調和のとれた社会」です。「SDGsの17の目標の中でもこの10年で極端に悪化している気候変動が一番の関心事ではありますが、ジェンダー平等や貧困問題などにも取り組み、誰もが安心して暮らせる社会をつくりたいと考えています。26年宇宙飛行士をやってきたけれど、宇宙にいたのは合計1年弱で、圧倒的に地球にいる時間のほうが長い。やっぱり、いかに地上の問題を解決し、地球でハッピーに暮らすかを考えるのが一番大事です。地上にいるとどうしても横の軸、自分の周りしか見えなくなってしまうから、そこに宇宙からの視点、上下の縦軸を与えるのが宇宙を経験した僕の役割。横軸と縦軸の視点から思考に3次元の広がりができることで、問題解決の道が見えるかもしれません」

野口聡一

 「SDGsやESGは理想の未来への道しるべになる」と、野口さん。「未来のためにできることを具体的に考えると、SDGsへの向き合い方が変わってくるはず。明るい未来の空想は、ポジティブに社会を回す原動力になります」

野口聡一 
NOGUCHI Soichi

宇宙飛行士。1965年、神奈川県出身。2005年、米スペースシャトルに搭乗。国際宇宙ステーション(ISS)で日本人初の船外活動を行う。09年にはロシアのソユーズ宇宙船に乗り込み、約5カ月半ISSに滞在。日本実験棟「きぼう」で実験を実施。20年、民間の宇宙船「クルードラゴン」で自身3回目となる宇宙へ。4度目の船外活動を果たす。宇宙からのSNS、動画発信も話題に。22年JAXAを退職。合同会社未来圏代表として次世代育成に取り組んでいる。

子どもたちへのメッセージ

社会の問題に関心を持ち、「自分が目指す未来のためになにが必要か」「今なにをすべきか」を分解して考えてみましょう。