未来空想新聞2041年(令和23年)5月5日(日)

アニメの力で世界は一つに!

「人間だからこそ」 より価値を持つ時代へ

 アバターを使って活動する「VTuber」が人気を博し、AIや音声合成技術の発達により本当の「バーチャルヒューマン」が登場するなど、声の仕事を取り巻く環境は目まぐるしい変化を続けています。
 声優ではなくても、さらに言えば、人間ではなくても声の仕事ができる時代になったことで、「人間である必要性を考えるようになりました」と、声優の石川由依さんは話します。
 「技術の進化で楽になることも多いと思うんです。たとえば、自分の声をAIに学習させれば毎回収録に行かなくて済むようになるかもしれないし、仮に声が出なくなってもAIによって私の声は残り、永遠を手に入れられるかもしれない。けれどもそれは、プロとして活動する私たちの仕事が減る可能性もはらんでいます」
 そうならないためには、「『自分』というブランドをつくる必要がある」と石川さんは考えています。「私は足し算よりも、引き算をするお芝居のほうが得意なので、心の機微といった小さな感情のエッセンスを少しずつ加えていくような、繊細なお芝居を追求できたらいいなと思っています」

キャラクターとともに成長できるのが芝居の面白さ

 もともと声優を目指していたわけではなかった石川さん。8歳から俳優として活動していたところ、舞台を見たアニメ関係者にオーディションへの参加を促され、声優デビューを果たしました。
 数々の人気作品に出演してきましたが、同じキャラクターを長年演じていると、一緒に成長しているような感覚になると言います。
 「昔のお芝居を振り返ると、『未熟だなぁ』と恥ずかしくなることもあります。でも逆に、初々しさはそのときだからこそ出せたもの。自分が成長した証しなので、当時のお芝居はそれが正解だと思っています」
 役を演じるにあたり、まずはキャラクターの性格や背景に思いをはせ、作品の雰囲気を把握したうえで自分に求められているものを考えていくのが、石川さんのアプローチ法。
 「原作を読んだときに頭の中で聞こえてきた声を自分の口から出せるように、ボイスレコーダーで何度も確認します。一番苦労するのは、専門用語です。私にはなじみのない言葉でも、そのキャラクターにとっては言い慣れている言葉。違和感なく聞こえるよう、繰り返し練習します」

一人ひとりの価値をより大事にしてもらえる社会に

 未来に向けて、「私だからできる仕事」を模索する石川さんは、「日常の何げない瞬間の気持ちや空気感、温度感を覚えておくこと」を大切にしています。
 「知らないことは何も想像ができませんが、何か少しでも知っていると、そこから想像を膨らませていくことができます。たとえば戦いを描く作品では、大けがをしたり、場合によっては死んだりと、自分が経験したことのない場面も出てきます。そんなときは、実際に過去に経験した小さな痛みを思い出して、それが大きくなったらどんな風につらいのか、体のどこに力が入るのか、想像を膨らませていくんです。本やドラマ、映画などからも想像の欠片(かけら)をたくさん集めておくと、いざというときに役立ちます」
 「人ではなくともできることが増える分、一人ひとりの価値をより大事にしてもらえるようになってほしい」。これが、石川さんが望む未来の社会の姿です。「『誰でもできる』『AIでもできる』ではなく、『人間だからできる』『私だからできる』『あなただからできる』。技術が進化したからこそ、『人である意味』が見いだせる未来にしたいですね」
 2041年に見たい新聞の見出しは、「アニメの力で世界は一つに!」。「お仕事でさまざまな国を訪れる度に思うのが、『〝好き〟の気持ちは世界共通!』ということ。アニメを愛する気持ちに国や文化は関係ありません。この輪がもっと大きくなれば、世界の平和へつながっていくのではないかと思います」

  • 石川由依
    ISHIKAWA Yui

    1989年、兵庫県生まれ。声優、俳優。8歳から舞台を中心に活動。2007年、声優デビュー。「進撃の巨人」ミカサ・アッカーマン役、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」ヴァイオレット・エヴァーガーデン役など出演作多数。13年に「第8回声優アワード」で助演女優賞、21年に「第15回声優アワード」で主演女優賞を受賞した。20年から、歌と朗読のソロプロジェクト「UTA-KATA」を行っている。

    想像力は、やさしさや思いやりにもつながるもの。いろんなことを知って、豊かな想像力を育んでください。

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