アーティストの與真司郎さんが思い描く未来は、「誰もが自分らしく生きることができる」社会です。活動休止中の音楽グループ「AAA(トリプルエー)」のメンバーとして、また多彩な活躍で知られる與さんは、2023年にゲイ(男性の同性愛者)であることを公表しました。
ファンが離れる心配もありましたが、「隠して生きるのはつらい。同じ悩みを持つ人の救いになるかもしれない」との思いが背景にありました。
LGBTQ+(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クイアやクエスチョニング)などの性的マイノリティーは、国内の人口の約10パーセントを占めると言われています(博報堂DYグループのLGBT総合研究所の19年調査)。この割合は左利きの人と同じくらいの割合です。しかし、性的マイノリティーの人は差別や偏見を恐れ、周囲に言わない人が多いのが今の社会です。
公表後、與さんのもとには多くのファンから応援メッセージが届きました。80代の女性からは「夫とともに尊敬し、応援しています。私たちの年代がみな同性愛に反対していると思わないで」と、うれしい言葉がありました。
創作活動においても與さんは「自分の経験談や意見を歌詞にするようになり、作品への思い入れが強まりました」と言います。
自分が「まわりと違う」と感じるようになったのは小学生のときでした。「世界で一人しかいない」と、孤独も感じました。小学5年から始めたダンスにのめり込んだことで「セクシュアリティーと向き合わなくてもよかったのは救いになりました」。
落ち込む自分も受け入れて、自分らしく
転機となったのは、16年の米国・ロサンゼルス留学。以来、行き来するようになった米国でメンタルヘルス(心の健康)について知ったことでした。本やポッドキャストで学んだり、メンタルヘルスについて友人と話したりするなかで、自分を受け入れることができ、自信がつきました。
「セルフラブ(自分を愛する気持ち)を大切にしていても波があります。ネガティブになったり、落ち込んだりしている自分もそのまま受け入れたら、楽になりました」
心がもやもやするときは、瞑想(めいそう)したり、音楽を聴いたり、家族や友人と悩みを話し合うこともあると言います。
與さんは今、「自分らしく生きるのが一番の幸せ」と感じています。セクシュアリティーを認めるだけではなく「みんなと同じ格好や考え方をしなければいけない」などの思い込みから自由になることも含まれます。
「SNSで他人との比較がすぐできてしまう時代だからこそ、周囲に流されずに自分を持つことが重要です」
與さんにとって多様性を尊重できる社会とは、一人ひとりの違いや個性を受け入れられることです。そのためには「自分の個性や自分が何をしたいのかを見つめることが他の人の個性を受け入れるはじめの一歩だと思います」。そして、学校でLGBTQ+の授業を取り入れたり、年代の違う人が歩み寄って意見を自由に言い合える場をつくったりすることが、大きな変化につながると考えます。「今の時代はまだカミングアウトは本当に勇気がいることで、悩んでいる人に『カミングアウトしても大丈夫だよ』とは簡単には言えません。だからこそ、41年にはみんながセクシュアリティーを含めてそれぞれの個性を普通に話せて、受け入れてくれる社会になればいいと思っています」と與さんは言います。多様性を認め合う41年では「カミングアウトという概念すらない社会に」と力強く話す與さんが、思い描く未来は? 「子育てに奔走しているかもしれません」と笑顔で話す與さんの「自分らしい」未来は、多くの人に力を与えてくれます。