未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

「AIネイティブ」高校生が地球を救う

環境系ユニコーン 評価額10億ドル超え

安宅和人

 環境対策関連のスタートアップ「セカンドパワー」が、企業評価額10億ドルを超える「ユニコーン企業」になった。代表を務めるのは高校3年生の有村湊さん(17)。2038年の立ち上げ以来、環境技術が世界的に注目されてきた。高校生によるユニコーン企業は日本初。裾野が広がっている中高生の環境系スタートアップはAIを自在に使いこなすのが特徴で、今後も「AIネイティブ」世代の活躍が期待される。

 環境問題は依然として人類の脅威となっている。風速70㍍を超える台風が都市を襲う将来予測もあり、都市・防災計画は根本から見直しが進んでいる。また、森林破壊や人口・家畜類の過密によりウイルス拡散のリスクにも常に直面している。これらヒューマンサバイバル時代の課題に対し、セカンドパワーなど環境テック企業が台頭。数々の解決策を生み出し評価されている。

 代表の有村さんは、2023年生まれの「AIネイティブ」世代。生まれた頃に、対話型AIツールが登場し、AIが日常の生活で広く使われるようになった。そこからあっという間にAIは爆発的な進化を遂げた。有村さんをはじめとする「AIネイティブ」世代の教育では、決まったことを正確に出す問題はAIにほぼまかせ、一方で人は「問う力」「創造する力」「コミュニケーションから価値を生み出す力」をより重視するカリキュラムになった。こうした教育の変化は、近年、中高生起業家が増えている背景でもある。複雑な問題の構造を見極め、最も効果的な解決策を導き出す思考方法はこの世代の基礎教養になっている。

 有村さんは世界中の中高生科学者たちとも交流を重ね、研究を続けてきた。中高生の起業家・研究者はもはや珍しい存在ではない。有村さんは「今は、若い世代が自ら解決できる社会。自分たちの手で地球規模の問題解決に取り組むことは、挑戦のしがいがあります。そして、自分たちがさらに下の世代を力づけられる存在になれればと思います」と語った。

(取材協力=慶應義塾大学環境情報学部教授・安宅和人さん)



安宅和人さんのインタビュー



ヒューマンサバイバル時代に必要なスキル、若者の可能性

 空想記事「『AIネイティブ』世界を救う高校生」は、慶応大学環境情報学部教授で、Zホールディングス シニアストラテジストの安宅和人さんの話を元に作成しました。安宅さんに記事の背景にあるテーマを聞きました。

安宅和人

 安宅さんは、「人類活動の活性化に伴う温暖化により、災害の甚大化は避けられません」と地球規模のリスクについて警鐘を鳴らします。「地球温暖化によって、海面水温の上昇や永久凍土の融解などが一層進んでいます。そうなると、巨大津波や台風などの気象災害や、未知のウイルスによるパンデミックなどの発生頻度はさらに高まるでしょう。新型コロナウイルスはその一端にすぎません」。

 パンデミックなどの危機に対応するためには、「空間の作り替え」が問われていると話す安宅さん。「パンデミックについては、都市部の人間の過密化が理由の一つ。開放(空気の循環)×疎(まばら&非接触)で『開疎』と私は言っているのですが、都市を開疎化すること重要です。これまでの文明・都市化が目指してきた『密閉×密』とはほぼ逆向きに聞こえるかもですが。感染のリスクを減らす上では、多くの空間の開放性をあげ、疎な状態を担保できるように作り替える必要がある」。

 一方で、地球環境への負荷を考えると、高密度なほうがよいと言います。「インフラはつまっているほど必要なエネルギーが少ないなど環境負荷が低いからです。これからは『高密度実装』と『開疎』の両立という問題を人類が解かないといけません」と将来への課題を指摘します。

 コロナ以前から「風の谷プロジェクト」という取り組みを安宅さんたちが行っているなかで、開疎というコンセプトが生まれたといいます。あらゆる地域で都市集中の流れが止まらなくなる中、疎空間がなぜ存続しえないのかという研究をもとに、大都市集中型の未来とは別の可能性を示すものです。「疎空間は、都市空間にくらべ1人あたり数十倍のインフラコストがかかり、1人あたりの生産性も上げる必要があります。課題の本質自体が解明されていないことが多々あり、それを探求しつつ、解決に向けた運動を起動するという100~200年スパンの世代を超えた取り組みです。2040年に希望の方向感が見えているといいなと思います」

これからの未来に求められる人材とは

安宅和人

 直面する地球規模の課題を「ヒューマンサバイバルの時代」という安宅さん。そのような将来に向け、求められる人材はどのように変わっていくのでしょうか? 「これほど不連続性が高いことが立て続けに起こるような時代であれば、通常の競争型人材だけで対応できないことはほぼ間違いありません。訳のわからないことを思いついて挑戦できる「異人」が必要。そういう人たちを大切にする。これが本当の意味のダイバーシティーなんだと思います」さらに、複雑に絡み合う課題を構造としてとらえる「システム思考」の必要性を強調します。「これからの時代は、地球や人間のくらしを系としてとらえ改変していくような思考の変容を求められています。システム思考的なものは基礎教養になる可能性が高いと見ています」。

 安宅さんは、「決まった答えがあるケースで与えられた問いに早く正確な答えを出す能力は、ほぼ無価値に近づいている」と言います。その背景にあるのが、AI技術の発展です。「〇〇がほしい、こういうモノが出来るといいな、欲しいものはこれとは違う、といった気持ちや思考の価値。そういう『問う力』や『感じ、評価する力』がとても重要になっていきます」。そのために大切なのは、もっと色々なことを面白がり、興味を持つこと。「T型人材とかπ型人材というのがありますが、本質的に求められる横軸も縦軸も広がります。真の教養の時代に突入していくと思います」

みんなが人類史に名を残すヒーロー、ヒロインに

安宅和人

 最後に若い世代に向けて安宅さんは語りました。「みなさんの将来は希望に満ちています。これだけ予測不能なことが起きて、答えのない問題が色々ある。大人たちが手をこまねく未来がやってきます。いまだかつてないテクノロジーの発達があって、いまだかつてない脅威が人類を襲う。みなさんはそれを解決するヒーロー、ヒロインになれる。大人になって『やることがない』などということは、まずありえません。みんなが人類史に名を残す可能性があります」

安宅和人
ATAKA Kazuto

1968年、富山県生まれ。慶應義塾大学環境情報学部教授、Zホールディングス株式会社 シニアストラテジスト。イエール大学脳神経科学PhD。マッキンゼーを経て、2008年からヤフー。教育未来創造会議前委員、内閣府人間中心のAI原則会議委員、外務省科学技術外交推進会議委員などを務める。著書に『イシューからはじめよ』、『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成』など。

子どもたちへのメッセージ

これからの社会は、これまで以上に多くの変化がありますので、楽しんでください。