藤崎彩織 「天空人語」
「私は、お父さんから産まれました」
全国小学生作文コンクールで、文部科学大臣賞を受賞したアイさんの作文は、こんな一文から始まる。
「お母さんは子宮の病気があって、子どもが産めませんでした。お父さんは、見た目も中身も男の人だけれど、子どもが産めました。私のお父さんは、トランス男性だからです」
アイさんの父は、2025年に生殖機能をなくす手術なしで性別が変更出来る「性別変更特別法」が施行されてすぐ、戸籍を女性から男性に変えた。その後、女性パートナーと結婚。悩んだ末に精子バンクを利用し、体外受精で妊娠した。
「夏休みに田舎へいった時、親戚のおじさんから『お前のお父さんの人生は、ややこしいなぁ』と言われました。その言葉がきっかけで、お父さんの人生について調べることにしました」
アイさんは作文の中で、法施行以前の状況について調べ、驚きを述べた。近年、トランスジェンダーの人たちの中でも選択肢が増え、生き方が多様化している。性別を変更する際に生殖機能をなくす手術を行う人もいるが、女性の生殖機能を残したまま男性になり、妊娠したアイさんの父のような人もいる。
「生まれ持った性別と自分が感じる性別の、どちらの幸せも手に入るよ。いつもお父さんはそう言います。お父さんの人生はややこしいのかもしれないけれど、教えてくれることはとてもシンプルです」
アイさんの文章は、SNSでも反響を呼んだ。全文は文科省のオフィシャルサイトに掲載。
藤崎彩織
FUJISAKI Saori- ふじさき・さおり/1986年大阪府生まれ。2010年、突如音楽シーンに現れ、唯一無二の存在感を放ち日本を代表するグループとなった4人組バンド「SEKAI NO OWARI」では“Saori”としてピアノ演奏とライブ演出、作詞、作曲などを担当。研ぎ澄まされた感性を最大限に生かした演奏はデビュー以来絶大な支持を得ている。文筆活動でも注目を集め、2017年に発売された初小説『ふたご』は直木賞の候補となるなど、大きな話題となった。他の著書に『読書間奏文』『ねじねじ録』がある。2023年4月には最新作エッセイ『ざくろちゃん、はじめまして』を発売。