失敗の歴史
この星の約束が近づいた
すぐ身じたくをして、怖がらなくていい
ただ 大切なひとの側で
期限切れの正義から
値札ははがされて 意味すら失って
ショーウィンドウの中 指をさされ笑われる
この星で ぼくら殺しあった
知っている限りのいじわるを縫って編んで
できるだけ、丁寧に傷つけあった
でも
遠くの星の恋人たちは夜空を見上げて
こんな話をする
ねえ、あの青い星を知ってるか?
地球というんだ とても綺麗だろ?
beautiful loser
ぼくら失敗の歴史だったの?
ゆらゆらゆらとさ まちがえた
でも できるだけ綺麗な約束をして、
探したんだよ 永遠のことを
それもぼくら覚えておこう
歌がおわってもまともでいたせいで
壊れてしまった
やさしい人から順番に壊れてしまったんだな
愛なんてそんな言葉は口にしないで
最初からちゃんと知ってて、
わかってて、あずかってて、ねえ
beautiful loser
ぼくら失敗の歴史だったの?
ゆらゆらゆらゆらとさ まちがえて
でもキレイな時間もあったよ
風鳴る午後の ゆうさりの道
それも君は忘れないで
マヒトゥ・ザ・ピーポーさんのインタビュー
想像と対話で複雑さに寄り添う社会
僕たちは完璧な世界ではなく、不完全な世界で暮らしている
「渋谷のスクランブル交差点って面白いですよね。青信号の短い時間の中で、いろんな考えの人がいろんな方向からやってきて、互いにぶつかることなく、ぐちゃぐちゃに混じり合いながら、自分の歩き方でなんとなく進みたい方へ向かっていくんです。今この瞬間も」
オルタナティブロックバンド・GEZANのヴォーカル/ギターで作詞作曲を手がけるマヒトゥ・ザ・ピーポーさんは、今年発表したアルバム「あのち」で現代を「好きなものわからなくなっても/嫌いなものすぐわかるだろう」(「誅犬」)と表現しました。
「人間は混乱した生き物です。僕自身も朝と夜で考えが変わる日もあれば、毎日楽しいなって時もあるし、全てが最悪の時代だと落ち込むこともあります。だけど現在のインターネット、特にSNSはそういった人間の複雑さをコミュニケーションから省いてしまっています」
しかし私たちは何かを買うのにも、どこかに行くのにも、人とのコミュニケーションをとるのにも、スマートフォン・SNSが欠かせません。
「別に原始時代に戻ろうぜって話じゃありません。ただ社会はSNSのスピード感だけで成立しているわけじゃないってことです。さっとプロフィールを見て『関わらない』と白黒つけるのは簡単。人はすぐ間違えるし、良くも悪くも変化する。シンプルな二元論に落とし込んで判断しようとすることに無理があるんです。僕は人間の揺れや余白を大切にしたい」
同時に自分とは違う人と対話することの必要性も語ります。「閉じたコミュニティーで『これが正しいよね』『あいつは間違っているよね』と自分の正しさをブラッシュアップして気持ちよくなっても、それが終わった瞬間にみんな自分の生活へ帰っていくんです。生活は開かれているから、いろんな人と出会う中でそのコミュニティーの正しさが助けてくれないことはある。それが現実です。自分と違う価値観を持った人とどう向き合うかをそれぞれが想像して、いろんな対話をする必要があると思っています」
さらにマヒトさんは「何が正しいかは時代によって変化します。僕は常に何をどうすれば優しいかを考えて行動しています」と続けました。
人間も世界も複雑、その複雑さに寄り添う
マヒトさんは音楽制作だけではなく、映画「i ai」の監督/脚本、さらにエッセイ、小説、絵本の執筆などさまざまな活動をしています。
「メディアにはそれぞれ性格があります。SNSはパッと思ったことをすぐ伝えられる。音楽だとアルバムでだいたい1年、映画は3年やっているけどまだ公開できない。でもそれでしか表現できないことを大切したい。自分の中にいろんな速度を持ってないと、複雑さを捉えきれないし、寄り添えない。だから立体的に活動をしているんです。いろいろやり過ぎて自分でも収集がついてないけど、それもスクランブル交差点みたいで面白いかなって」
2022年3月5日には反戦デモ「No War 0305 powered by 全感覚祭」も実施しました。「『全感覚祭』は良い音楽と人との出会いと良い対話のきっかけを作る目的で開催しています。『No War 0305』はその発展系。みんなの意見をひとつにまとめて世に示す目的もあったけど、同時に『どうしていいかわかんない』ってモヤモヤを共有する場を作りたかったんです。ああいった状況の時に一緒にわからないでいられる時間も大切だと思って。対話したり、一緒に考えたり。そういうアクションは未来に向けて続けていきたい」
個性や霊性の獲得がAIと共存するスタートライン
人間の複雑さに寄り添うマヒトさんのアーティスト活動ですが、近年はAIが創作の分野にも進出してきました。そのスピードとクオリティの高さが大きな話題になっています。しかしマヒトさんはオノ・ヨーコさんの作品を例に出してAIの限界を指摘します。
「僕は一本の直線に『この線はとても大きな円の一部です』と添えられた作品が好きです。人間にはまっすぐに見えても、その線を思い切り引き伸ばしていくと実はほんの少しだけ曲がっていて円の一部を構成している。つまり現実の世界で人間が作るものはどこか不完全なんです。でもWEB上では完璧な直線を引くことができる。それは現実にないもの。その美しさは否定しません。だけど僕たちは完璧な直線の世界ではなく、不完全な直線の世界に帰って、不明瞭な人と出会って生きていかなきゃいけない。これは10〜20年前も、10〜20年後も同じです。僕はいま中野サンプラザでのライブに向けてずっと練習しています。どれだけやっても完璧になれない。でもそのずれが愛しい。だからバンドをやっています。聴いてる人も不完全で揺れる存在だから、AIがノイズとして切り捨ててしまうものを含んだまま音楽と関わっていきたい」
テクノロジーが人間を退化させるディストピアは映画「ウォーリー」などの数々のSF作品で描かれてきましたが、マヒトさんは形見や歴史のある舞台を引き合いに出して、AIの可能性に言及しました。
「物は記憶や感情を引き継げます。例えば尺八奏者だった祖父が遺した尺八はただの物質だけど、僕にとっては個性があり、霊性を帯びています。同じようなことがライブハウスやステージにも言える。ニルヴァーナやボブ・マーリーが立った中野サンプラザのステージに立つと、会場に宿った霊性が僕にいろんな気持ちを喚起させるんです。もし今後、AIがそういった不完全さや不都合さすらも学習できたなら、そこが共存のスタートライン。そしたらAIが個性や霊性を獲得するかもしれない」
これは『攻殻機動隊 Stand Alone Complex』で描かれた、合理的で並列化されたAIが不合理すら含んだ個性を持てるのかというトピックにも繋がります。
「僕らのくらしにはスマートフォンという名のパソコンが欠かせないけど、それはとても怖いことでもある。震災やコロナの時、情報はとても重要だった。だから僕らは知らずに依存した。でもそこをビジネスにして大儲けした人もいる。結果、身近な対話が減少して、その果てで世界の分断が加速しました。ただ対話や想像が大事だと気づいた人が少なからずいる。そこが未来への希望。自分はそこに賭けてみたい」
最後に2040年に何をしているか質問してみました。
「複雑なまま生きていける社会が本当の意味で優しい。僕は、あいかわらず風に吹かれて揺れているでしょうね」
マヒトゥ・ザ・ピーポー
MahiToThePeople- 1989年生まれ。2009年に大阪で結成されたバンドGEZANで作詞作曲をおこないボーカルとして音楽活動を開始。14年から完全手作りの野外フェス「全感覚祭」を主催。23年に通算6枚目のアルバム「あのち」をGEZAN With Million Wish Collective名義で自主レーベル十三月から発表した。音楽だけでなく、エッセイや小説、絵本の執筆に加え、映画「破壊の日」には俳優として出演。さらに監督/脚本を手がけた映画「i ai」の公開も控えている。