未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

「自宅で」「クラブで」自由な葬儀

死との出会い方をとらえなおす

前田陽汰

 死亡数が年々増加している日本。2040年には約168万人のピークを迎えるとされています。オンラインの追悼サービス「葬想式」や「自宅葬のここ」を運営する株式会社むじょうの前田陽汰さんは「葬儀は悲しみだけではなくて、これからの自分がどう生きるのかを考える場でもある」と語ります。

 前田さんが「死」にまつわる事業をはじめたきっかけは、島根県で暮らした高校時代。国や自治体が「地方を活性化しよう」と旗を振り、「地域の衰退」がネガティブにとらえられる風潮に疑問を持ちました。

 「新しいものを生み出す人はたくさんいるのに、終わりに光を当てる人はあまりいない。終わりという変化に、優しいまなざしを向けることをやりたい」。なぜ、衰退や終わりは否定されるのか。突き詰めると、日常から人の「死」が切り離されているからだろうと考えました。「日常に死があった時代から、日常から死を排除した現代に変わり、〈物事には終わりがある〉という無常観をつきつけられる瞬間がなくなった。人と死との出会い方をリデザインすることで、無常観を取り戻したいと思いました」

前田陽汰

 前田さんは「2040年までに死の問題が顕在化する」と言います。病院や火葬場など、今のインフラでは対応力に限界があるからです。「病院のキャパが限界で死を迎える前に自宅に帰されるかもしれない。火葬場が2週間待ちで火葬に代わるレゾメーション(液体で遺体を溶かす処理)が導入されるかもしれない。今の仕組みが回らなくなる中で、死への意識を変える必要が出てきます」

 前田さんが大学時代に開発した「葬想式」は、オンラインで故人の写真やエピソードをご遺族や友人が共有する追悼サービス。ご遺族がお持ちでなかった写真が投稿されたことで故人の知らない一面を知り、新たな思い出になったとの反響も。

 前田さんは言います。「残された人にとって、お葬式は故人がいなくなった世界を生きていくための大切な節目です。お葬式が形式にとらわれず、もっと自由になるといいなと思います。音楽が好きならクラブでお葬式をあげてもいいし、愛するペットに見送ってほしいと思ったら自宅葬を選ぶ。今は家族が主体で故人を見送りますが、友人や地域が追悼の主体でもいい。遺体は誰のものなのかを考えたとき、未来では、血縁にとらわれないパブリックな存在になるのではないかと想像しています」

前田陽汰
MAEDA Hinata

2000年生まれ、東京都出身。島根県立隠岐島前高校卒。19年に慶應義塾大学総合政策学部に進学。20年に株式会社むじょうを設立。3日で消える追悼サイト「葬想式」や自宅葬専門ブランド「自宅葬のここ」の運営といった葬祭関連事業のかたわら、死んだ父の日展、棺桶写真館などのイベント事業を手がける。共著で『若者のための死の教科書』(青文舎)。100BANCH GARAGE Program50期生。

子どもたちへのメッセージ

宿題に締め切りがあるように、人生にも締め切りがある。そのことをいつも頭の片隅に置いておくと、生き方がきっと変わると思います。