未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

伊藤和真


伊藤和真さんのインタビュー


自分の声が届く、納得感ある政治

ルールは自分たちで変えていく、つくっていくもの

伊藤和真

 「なんでこんなにアナログなんだろう?」

 伊藤和真さんは大学生の頃、選挙の街頭演説を聞いてそう感じたといいます。政治や行政の情報が自分の日常生活から離れすぎていて、わかりづらい。そんな19歳の課題意識が、政策共創プラットフォーム「PoliPoli」の設立につながりました。

 PoliPoliは、政治家が投稿した政策に、国民が直接コメントを送って、一緒に政策を前に進めることができるインターネット上のデジタルプラットフォーム。利用者は、政治家が提案した政策の進捗を確認したり、新しい政策をリクエストしたりできます。行政が掲載した相談に対して、意見やアイデアを投稿できる「PoliPoli Gov」なども提供しています。

 「『国の政策に国民の考えや意見が反映されていない』と感じている国民は66.9%、という政府の調査結果(2021年度)があります。政治分野での成功体験が圧倒的に少ないので、選挙に行っても何も変わらないと多くの人が諦めを抱いている。私も、PoliPoliを設立するまで政治なんて全然興味なかったですし」

 伊藤さんの中で、どのような意識の変化があったのでしょうか?

 「誰しも自分に身近な課題や、悩みがあるはずなんですよ。私の場合はスタートアップでの仕事を経験する中で、ストックオプションに関する法律などに触れざるを得なくなりました。それで、法律を定めている場である政治がグッと身近な問題に感じられたんですね」

 気候危機、ジェンダーなど、関心を抱く課題は人によってさまざま。「政治」と聞くととても壮大に聞こえますが、自分の生活の延長線上にある課題からでも関わっていける、と伊藤さんは語ります。

 「例えば、PoliPoliをきっかけに生理用品を無償提供するための政府予算獲得も実現していますが、これもまさに、一人のネットユーザーさんの切なる声が国会議員を動かした事例。こうした成功体験をどんどんつくっていけば、社会は確実に変わるはずなんです」

政府に自分たちの声が届く「信頼」をつくりたい

伊藤和真

 少子高齢化が著しい日本。人口は減り続け、経済成長は鈍化しているにもかかわらず、イシューは増え続け、かつ複雑化しています。

 「これまで有権者は、自分たちが選んだ政治家に政治運営を委託する、という形でやってきたけれど、もう、その仕組みだけでは不十分な点もあるのではないかと考えています」

 「政府への信頼をつくりたい」と伊藤さんは何度も口にしました。

 「国民が『自分の意見が政府に届いていない』と感じることが、信頼されないことに繋がっています。PoliPoliで、自分の声が政府に届いているのだという成功体験をつくることができたら、それが信頼につながる。信頼関係があれば、投票率は結果的に上がるものです。そういう意味で、投票率は『指標』の一つに過ぎないと思っています」

 Z世代の活動家が注目される中、伊藤さんは「プラットフォーマー」としてフラットな立ち位置を貫いているのが印象的です。

 「社会を変えるために、『怒り』の力はとても大事です。私たちもいろんな政策提言を受ける中で、人々の痛みや、フラストレーションに毎日のように触れています。そのような『怒り』の感情が、政治や行政へ適切に届けられるシステムをつくりたいと考えています。PoliPoliは特定の政策を通すために活動している団体ではなく、あくまでも、政治、行政の新しい仕組みづくりがミッションなんです」

いつか世界中で使われるプラットフォームを

伊藤和真

 2040年の新聞の見出しについて、「『政府への信頼度が世界最高』なんてニュースが載っていたらサイコーですよね」と答えた伊藤さん。

 「自分の声はちゃんと政府に届いているのだと多くの人が納得感を持っている国をつくっていきたい」

 日本財団の「18歳意識調査」(2019年)では、「自分で国や社会を変えられると思う」という質問に「はい」と答えた日本の若者は18.3%。現代の若者は、明るい展望を持てず、無力感に苛まれてしまいがちです。

 「今、日本は夢を持ち続けることが難しい社会になりつつあると感じます。PoliPoliを始めたときも、周囲の人はみんな反対しました。私は当時横浜に住んでいたので、『いつか横浜市に使ってもらえたらいいな』と思っていた。そしたら去年、それが実現したんです」

 夢は叶う。それに、社会も変えられます、と言い切る伊藤さんの表情は希望に満ちています。

 「みんなでより良い社会を目指していくという営みは、大変だけど楽しさもある。その『ワクワク』を感じる人が一人でも増えてくれれば。政治は誰しも無関係ではいられない領域なので、いろんな人を幸せにできる可能性を秘めている。あと、人生で一度は世界規模のインフラをつくってみたいんです。それが今の私の夢ですね」

伊藤 和真
ITO Kazuma

1998年生まれ、愛知県出身。慶應義塾大学商学部卒。2018年、学生時代に俳句アプリ「俳句てふてふ」を発表し、のちに毎日新聞に事業売却される。同年、政策共創プラットフォーム「PoliPoli」を設立。政治家や政党からの相談や意見募集中のテーマにコメントし、アイデアを共有することができる。現在、政治家・行政機関・企業・国民向けに4つのサービスを展開中。

子どもたちへのメッセージ

夢があったら諦める必要はない。それに、社会も変えられます。