未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

「ひとり一立国制度」スタート

不特定多数の人とゆるやかにつながる「公共」

田中元子

 東京都墨田区にある「喫茶ランドリー」は洗濯機を備えた不思議なカフェ。オーナーの田中元子さんが「誰もが気軽に来て、自分の実家みたいに過ごせる場所に」と2018年にオープンしました。

 きっかけは「フリーコーヒー」という実験でした。街角で知らない人にコーヒーを振る舞うだけで、年齢や性別、職業を超えた思いがけない出会いが生まれました。「不特定多数の人と接点を持つと、自分の世界が広がってワクワクが大きくなります。こうした『出会いの可能性』を自分の中に準備しておくことも公共性だと思うのです」。田中さんはこれを『マイパブリック』と名付け、まちづくりなどの活動につなげてきました。

田中元子

 「情報化社会になっても本当につながりが必要な人にはなかなか届かない。うっかり入って来てしまうような場所が必要とされていると感じています。マイパブリックは場所でなくても構いません。たとえば、大阪のご婦人たちのバッグの中にある『飴ちゃん』も、不特定多数の人々と出会う可能性を秘めている、持ち運び可能なマイパブリックです。『世の中には自分がコントロールできない多種多様な人々が生きている』という世界を受け入れられたら、楽しく生きられると思いませんか?」

 こうした感覚を持っていると、突然起こるアクシデントにも寛容になり、面白いと思えるようになるといいます。「人間のエラーは必ず起こるもの。『どう対処したら楽しい出来事に発展するだろう』と前向きに想像できる心のコンディションがあれば、不安や悩みもきっと減るはず」。そうした出会いと遭遇できる確率を上げられるように、田中さんは空間や街の景観をデザインしています。「物事の見方が変われば他者への警戒心も薄れ、そこから生じていた差別意識も消えていくと信じています。そんな世界の見え方やとらえ方が変化するような体験をつくっていきたい」

田中元子

 人口問題や環境問題といったさまざまな社会課題の解決を迫られている中、ITやAIの進化によって制御可能になる未来も語られます。「ポンコツな生き物である人間のフォローはコンピューターに任せて、人間は不要不急で役に立たないことをいとおしんで生きていけるといいですね」

 2040年に向けて、田中さんはひとりでも国家を宣言できる社会を夢想します。「一人ひとりが国境を持ち、無理のない範囲でゆるやかにつながっていける。個人が責任を持てる範囲で自由を形づくれるようになれば、肩の力を抜いて生きられる、優しい世の中になると思います」。それはマイパブリックが進化した姿なのかもしれません。

田中元子
TANAKA Motoko

建築コミュニケーターとして、建築関係のメディアづくりに従事。2016年「1階づくりはまちづくり」をモットーに、株式会社グランドレベルを設立。空間・施設・まちづくりのコンサルティングやプロデュースなどを全国で手がける。主な著書に『マイパブリックとグランドレベル』『1階革命』(晶文社)ほか。

子どもたちへのメッセージ

時に重荷になる「信じる」ことより、理屈じゃない「愛する」ほうが楽しいよ。