未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

秋吉浩気


秋吉浩気さんのインタビュー


デジタル技術で誰もが住まいの設計者に

建築家 秋吉浩気さんが考えるデジタル技術を用いた未来の家づくりとは

秋吉浩気

 デジタルファブリケーション技術を使い、一般の人も家を建てることが可能な仕組みをつくる、VUILD代表の秋吉浩気さん。2040年の住まいはどうなっているのか、未来を思い描いてもらいました。

「住まいは、自分の夢をかなえ、自分らしい生き方を支えてくれる、そんな家族のような存在になっているでしょう」と秋吉さんは考えます。多くの人にとって、建築はすでに出来上がったものを選んだり、建築家に注文したりと「住みたい家」というより、「住まわされている」状態かもしれません。デジタルファブリケーションの技術により「こんな空間にしたい」あるいは「生き生きと暮らせる自分に合わせた住まいを自身で自由に設計して作りたい」というように、能動的に住まうことが可能になっていくでしょう。

 こういった誰もが作り手になり、自分らしい住まいを手に入れられる「建築の民主化」を秋吉さんは掲げています。

ものづくりや建築で夢をかなえる

秋吉浩気

 秋吉さんがこうした発想を得たのは、大学院生のとき、木材を自分の思いどおりに加工できるデジタル工作機器、ShopBot(ショップボット)に出会ったことでした。「手先が器用でなくても、大工や職人でなくても、パソコン1台でデータをつくって出力すると自分のアイデアを何でも形にできることに、驚きと感動がありました」ShopBotでものづくりを手がけ、大きな可能性を感じていたところ、投資家から「世界を変えてみませんか」と出資の話がありました。

 秋吉さんは、ものづくりからスケールを広げ、「デジタルファブリケーション技術ですべての人が建築の設計者になれる未来をつくれるのではないか」と考え、VUILD(ヴィルド)という会社を立ち上げました。

 VUILDでは、建築の知識がない人でも、アイデアさえあれば「設計者」になれるツールを提供しています。形や間取りなどを三次元で思い通りにデザインできるほか、デジタル工作機で加工するためのデータを作成したり、製作にかかる費用を簡単に見積もったりすることができます。
 これまでの建築業界は、それぞれの専門性に応じた役割分担が明確化され、個人が関わるのはとても難しい領域でした。VUILDの取り組みは、自らの意志や発想をもとに、「つくりたい」という想いをだれもが表現できる時代が、すぐ近くまで来ていることを実感させてくれます。

デジタルで人とのつながりを生む

秋吉浩気

 デジタルファブリケーション技術で、誰もが設計者になれる「建築の民主化」に取り組んでいる秋吉さんですが、活動を続けるなかで、新たな可能性にも期待を寄せています。

 そのひとつの例が、富山県南砺市利賀村にある「まれびとの家」です。過疎地域の社会課題の解決と、これまでにない建築手法で注目されています。

 「まれびとの家」のプロジェクトは、過疎地域の利賀村の住人の「人をもてなす場所をつくりたい」という思いを、地域の伝統構法とデジタルファブリケーション技術を掛け合わせた独創性のあるデザインで具現化しました。アイデアがすぐに形になることで、大工さんがアドバイスをくれたり、建築物が形になるにつれて、様子を見に来た地元の人が作業を手伝ってくれたりするようになりました。

 デジタルファブリケーションの技術によって、建築に個人が関わることのできる領域は増えますが、「誰もが主体的に建築に関わり『自分がつくった』と思えることも、建築の民主化の考えとして重要になっていきます」と秋吉さんは言います。

自分らしく「生きる」を「つくれる」未来

秋吉浩気

 今よりも様々な要素を自由に選んで、自分にとって幸せと思える住まいを自分で創ることが簡単になる。秋吉さんはそのような未来を見据えています。

 形や間取りなどを自由にデザインできるプラットフォームをこれまで構築してきました。さらに、これから先は、家の快適さを左右する機能や、省電力の性能、さらには環境への負荷などが見える化され、個人がデザインの段階で自由に取り入れられるようになるでしょう。自分の家で消費するエネルギーをゼロにする、あるいはエネルギーを生成して、周囲に提供することもできます。建設業界が環境に与える負荷は大きいため、現在、住宅をつくることは環境悪で、家を建てても壊してはいけないと考えられていますが、あらかじめ分解や再利用を前提とした家をつくれば、資源の循環につながります。また、木を使うことは大気中のCO2を固定化することにもつながります。自分の生活する場所を人びとが心から納得してつくることができるようになれば、社会全体の好循環にもつながっていくと考えています。

 会社名のVUILDには、「生きる」と「つくる」このふたつの言葉を由来にしています。  秋吉さんは、誰もが自分らしい生き方を自由につくることのできる未来を思い描いています。

秋吉浩気
AKIYOSHI Koki

1988年大阪府生まれ。芝浦工業大学工学部建築学科卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科X-DESIGN領域にてデジタルファブリケーションを専攻。2017年VUILD(ヴィルド)を創業、代表取締役CEOに就任し「建築の民主化」を目指す。家具製造、建築、街づくりなど幅広い領域を手がける。主な受賞歴に2019年Under 35 Architects exhibition Gold Medal賞、2020年グッドデザイン金賞など受賞多数。

子どもたちへのメッセージ

どんな居場所をつくりたいのか、自由に想像してみてごらん。自分が思ったとおりにつくれるようになるよ。