未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

人工知能の赤ちゃん誕生

テクノロジーと人間の新たな共存関係

玉城絵美

 「もともと引きこもり体質なので、外出できないこと自体は苦ではありません(笑)。だからこそ、部屋にいながら世界中の『体験』がしたい、という発想になりました」。持病で入院することが多かったという玉城絵美さんは研究のきっかけをこう語ります。

 ボディシェアリングの技術では、遠隔で重さの感覚、手や指の位置の感覚、物体の抵抗などを体に伝達します。たとえば、カヤックをこいでいるときの水の抵抗感、スポーツ選手がホームランを打ったときの感覚なども体験の共有が可能です。

 「能動的で臨場感があって、『自分でした感じ』があるのが魅力です。身体的・空間的・時間的制約がなく、一日の中で陶芸もスポーツも観光もする、といったように、本人の好きな体験を抽出し、合成させて楽しめるようにするのが目標です」

 ボディシェアリングが産業化すれば、農業従事者の高齢化や、障がい者や長期療養者らの社会参加機会の制限といった社会課題解決も期待できます。

 「没入感を伴って多くの体験を得られると、他者への共感も増し、『あの人はこんなふうに感じていたんだ』と相互理解が深まることにつながります。ボディシェアリングによって、3倍量の人生体験を得られるようになれば、人類はもっとお互いの文化や考え方を尊重し、多様な生き方を認め合えるようになるかも」

玉城絵美

 2040年には、ボディシェアリングの最終目標は達成されているはず、と玉城さんは言います。そのとき、玉城さんはどんな研究をしているのでしょうか?

 「『自発的な知性』をアバターに移植する研究をしていたいです。コンピューターって今は、アインシュタインが『言ってそうなこと』は言えますが、質問されていなかったことには反応できない。自発的に考えて発言できるコンピューターが2040年に生まれるといいですね。言うなれば、人工知能の赤ちゃんが生まれるということです」

 体験量が増し、相互理解を深めるボディシェアリング、自発的な知性を持つコンピューター。研究を通じてヒトだけではない他者との関係性における新たな可能性を示している玉城さんは、これから「人間の欲望」がますます大切になると語ります。

 「今までは、消費者が『こんな服が欲しい』『こんな文章が読みたい』と思ったら、生産者が一生懸命作っていた。これからはコンピューターが作ってくれるようになるので『何が欲しいか』という欲望が重要になるはず。これからの子どもたちには、自分はどうしたいのか、何が好きなのか、という自分の『欲望』を突き詰め、夢を追いかけてほしいと思います」

玉城絵美
TAMAKI Emi

1984年生まれ、沖縄県出身。琉球大学工学部情報工学科卒業。筑波大学大学院システム情報工学研究科修了。東京大学大学院学際情報学府で暦本純一教授に師事。2011年に発表した「PossessedHand(ポゼストハンド)」が米『TIME』誌の「世界の発明50」に選出される。12年にH2L, Inc.を創業(現在CEO)。現在は、東大大学院工学系研究科特定客員大講座教授、琉球大工学部教授、経済産業省研究開発・イノベーション小委員会委員も務めるなど、多方面で活躍。

子どもたちへのメッセージ

「自分はどうしたいか」という欲望がますます大切な時代です。消費行動に誇りをもって、好きなことを突き詰めてください。