未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

未来空想新聞

2040年(令和22年)5月5日(土)

働きたい人がみんな働ける世界

人が人を分類しない「超シンプルな社会」に

夏目浩次

 久遠(くおん)チョコレート代表の夏目浩次さんが目指すのは、誰もが自分らしく生きられる「障がい者」「LGBTQ」といった枠組みすら不要になった「超シンプルな社会」。子どもたちから「昔の新聞に出てくる『障がい者』って何?」と問いかけられるような未来を思い描いています。

夏目浩次

 さまざまな「生きづらさ」を抱えた人の就労支援をはじめて約20年、夏目さんをつき動かすのは「こんな世の中はナンセンスだ」という率直な思いです。

 2023年現在、障がい者向けの作業所で支払われる賃金の平均額は、月1万円台。重い障がいの場合は、3千〜4千円といいます。

 「障がい者の働きぶりには本当に数千円、1万円の価値しかないのでしょうか。障がいがあるだけで、進学や就職の選択肢を奪われていいのでしょうか。世の中で『あたり前』だとスルーされている事実の中には、おかしな問題がたくさん潜んでいます」

 久遠チョコレートのスタッフは、障がいの有無に関わらず最低賃金以上の給料を保証されています。練り込む素材を粉末にする「パウダーラボ」では、生活介護を必要とする障がいの重い人たちも働いています。月給は5万円以上で、福祉の枠組みを超え、仕事としての対価を得ています。

 スタッフは高い生産性を発揮していますが、工場内に流れるのはゆったり、ほっこりとした空気。みんなマイペースに働いています。

夏目浩次

 「『こうあるべき』作業を押し付けると、自分も相手もつらくなる。力を抜いて一人ひとりの凸凹(でこぼこ)を認める『脱力経営』がモットーです」

 一方、多様な人材を受け入れることと企業成長は両立できると、社会に証明しようともしています。設立8年で年商は約16億円に達し、株式上場も目指しています。

 「凸凹のある職場で、品質とブランド力を高めるのは至難の業ですが、実現できればオンリーワンになれる」

 若い世代にも、「おかしい」と感じたことがあれば、たとえ周囲の大人が「できるわけがない」と諦めていても変えようとしてほしい、と要望します。

 「今すぐ行動できなくても心に留めておき、時期が来たら少しずつ動き出してほしい。道のりは遠くても、将来ありたい姿に向かって泥臭くもがき続けることが大事です」

夏目浩次
NATSUME Hirotsugu

1977年、愛知県豊橋市生まれ。2003年に障がい者に最低賃金を保証したパン工房を開設。14年、チョコレートを製造販売する「久遠チョコレート」を立ち上げ、全国40店舗を含む57拠点に事業を拡大した。雇用するスタッフ570人のうち300人以上が障害者手帳を持ち(22年8月時点)、確定診断のつかない「グレーゾーン」の人やLGBTQの当事者など、さまざまな「生きづらさ」を抱えた人も多数働いている。

子どもたちへのメッセージ

「人は単純で優しいいきもの」。シンプルに物事を見よう。「ナンセンス」には敏感に。