同性愛「有罪」の国ゼロに
僧侶でありメイクアップアーティスト、LGBTQ当事者である西村宏堂さんが、「ありのままの自分でいい」と思えるようになったのは、自分のことを隠さずに堂々と生きる恩師や仲間との出会い、仏教の教えやメイクの力が大きな後押しになったと振り返ります。
「月の光が全ての人に降り注ぐように、浄土宗では人はみな平等に救われると説いていることを知り、私も何も隠す必要はないし、みんなと同じように価値があるのだと気づきました。メイクはコンプレックスをアップデートし、理想の姿を演出することができます。自分でダメだと思っていたことが解消されると、新たな目標が生まれ新しい世界が広がることが実感できました」
しかし自分に向き合い、それを認めるには困難も伴います。西村さんは「まず、いろいろな価値観や文化に触れて、自分の〝好き〞に気づく機会を増やすこと」を薦めます。「人は鏡。同じような鏡だけで自分を見ていると、知らない自分には気づけません。いろいろな国から来た人と話したり、世界各国の新聞や本を読んだり、多様な鏡に映った自分を知ることで、『ありのままの自分でいることは美しい』と思えるようになるのでは」。西村さんが考える美しい人とは「外見ではなく、自分の価値を気づかせてくれる人」だといいます。「周りの人に夢や希望を与えられる力や思いやりが美しいと評価されていく時代になるといいですね」
2040年の未来、西村さんは「もっと世界の国境がにじんでほしい」と思い描きます。パートナーと暮らしたくても同性愛を〝違法〞とする国がある現在、「同じ地球に生きる人間として、違うルールがあるのは不公平。それぞれの国の歴史や文化を尊重しながら、等しく交流できる世界になってほしい」。さらに「違う国に『お母さん』『お父さん』を持てたら面白いのでは」と空想してくれました。自動翻訳で言語の壁が無くなる未来、悩み事などを気軽に相談すると、別の価値観を持った「両親」から思いもしなかったアドバイスがもらえます。「実現したら感受性豊かで、世界規模の知恵をつけた素敵な大人が誕生する気がしませんか?」
西村宏堂
NISHIMURA Kodo- 1989年、東京都生まれ。米・ニューヨークのパーソンズ美術大学を卒業。ミス・ユニバース世界大会などでメイクアップアーティストとして活動し、2015年に浄土宗の僧侶となる。20年に著書『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』(サンマーク出版)を発表、22年に英訳版“This Monk Wears Heels”を出版。ドイツ語、フランス語、エストニア語、スペイン語などに翻訳されている。